東京都、或いは大阪府の木として指定されている「銀杏(イチョウ)」は公害や火にも強く、街路樹として全国各地に植えられています。都心では明治神宮外苑の絵画館へと続く並木道、或いは大阪御堂筋の黄葉が美しく、黄色い絨毯を歩くとかなり臭くもあります。
また、加藤清正(1587〜1611)が植えた熊本城の銀杏を始め、昨年三月の強風で惜しくも倒壊した鎌倉の鶴岡八幡宮の他、東京大学など神社仏閣、公園や大学の象徴となっています。さて、東京都の最も古い銀杏は麻布十番の善福寺境内の古木で、俗に「逆さ銀杏」「杖銀杏」とも呼ばれ、推定樹齢は七五〇年以上だと云われています。
文献には1318(文保2)年、に始めて出てくるのであって、源氏物語や万葉集には出てきません。銀杏は中国原産の落葉高木で、11世紀の初めに北宋の開封に移植され、仏教寺院に植えられたことから、仏教と共に日本に入って来たようです。そうすると、善福寺の銀杏は日本に入って来た頃に植えられたものなのですね。鎌倉時代に伝わったこの銀杏は古生代末期(ベルム紀)に起源をもつ雌雄異株の裸子植物で、凡そ二億年前には地球上に広く繁栄し、アジアだけでなく北米や欧州でもその化石が見付かっていますが、五百万年前位には殆どの地域で絶滅してしまいました。唯一、中国南部の浙江省天目山
辺りに生き残った銀杏があり、やがて人に発見されて里に下り、植えられて行ったのです。現生する種子植物としては最も古い部類に入るため、「生きた化石」と呼ばれています。
一つの銀杏の木に雄花か雌花かのどちらかしか付けません。実が結実する為には雄株の花粉による受粉が必要です。この銀杏の精子は平瀬
作五郎(1856〜1925)によって、1894年に発見され、世界初の裸子植物の精子となりました。
この、銀杏の木は油分を含み水捌けがよく、材料も均一で加工性に優れ、歪みが出難いことから、俎板、カウンター、建具の他、碁盤や将棋盤にも使われています。
さて、銀杏の種子「銀杏(ギンナン)」は熟すと自然と落下し、外種皮は汁気が多くビルボール、イチョウ酸を含んでいるため悪臭がする上、素手に触ると、ギンコール酸などにより、漆のようにかぶれます。食用には外種皮を除いた殻の中の黄緑色をした胚乳組織で、澱粉、カロチン、ビタミンCなどを含んでいます。滋養強壮、強精効果のほか膀胱や肺を温める働きがあり、頻尿や夜尿症の改善、喘息の治療、咳き止め、痰切りなどに効果があるようです。
スタミナが付くとは云え、一度にたくさん食べると消化不良を起こしたり、のぼせたり、鼻血を出すこともありますから、精々十粒、子供なら五粒程度に控えましょう。
赤黄色に落ちた果実を集める時は、ゴム手袋を使い、バケツに水をたっぷり入れて、中に銀杏を沈めます。その際に浮いたものは捨てます。そして、水中で果肉を外し、殻のままザルに載せ、新聞紙の上でよく乾燥させましょう。
八百屋で買う場合は殻の表面の色が白く、デコボコのないツルツルしたものを選ぶのがコツです。振ったときにカラカラと音がするものは、中が未成熟の可能性があります。できたら、野菜保存袋に入れて、冷蔵庫で保存しましょう。
調理前に包丁で硬い殻を割るには、銀杏を押さえ、包丁の背で筋の部分をコンコンと叩いてヒビを入れ、指で殻の筋を押して割ります。専用のペンチもあれば、簡単に割れます。また、使い古しの封筒に銀杏を十粒程入れて、電子レンジでチンするだけでも割れるそうです。
中の薄皮は、ひたひたの水を入れた鍋に銀杏を入れて、茹でながらお玉の背で転がすようにすると、ぺろりと向けます。七割も剥けたらば、水にとって指で剥いても大丈夫です。
銀杏は翡翠色で柔らかく、かすかな苦みと特有の風味が好まれ、茶碗蒸、掻き揚げ、がんもどき、銀杏ご飯の他、単に塩茹でや、塩炒りにしたものも酒の肴に喜ばれますね。美味しいからと云って、くれぐれも食べ過ぎには注意してください。
すき焼「今朝」のヒゲ親父の獨り言 gramophonの音戯函